3.様々な動物種と様々な調査地

Q.具体的な研究対象の動物種はどのように絞りましたか?複数種興味がある場合は、研究対象は絞った方が良いですか?

ケースバイケースです。種間の比較によって進化的な制約を明らかにできますので、複数種の比較は重要です。逆に、特定の種に集中して取り組まないと、行動・生態・生理・進化・環境など互いに関係するものが捉えられません。バイオロギングは動物に付ければ何かはデータが得られるため、安易に対象種を増やさないようにはしています(と言いながら色々やってますが……)(依田)

大学院生は、種を絞って研究することを勧めています。種間比較などのようなテーマは、ある程度研究を進めてみないとPoint of viewは見えてこない場合が多い様に思います。(佐藤)

現在、自分の置かれている状況で、もっとも素晴らしい研究を行う事が出来る動物種を研究対象に選んでいます。最初はさほど魅力を感じなかった動物種でも、研究に取り組むうちに愛着が湧いてくることが分かりました。今は、オオミズナギドリとウミガメを研究対象にしていますが、眺めるだけだったらイヌやネコ、アザラシのような毛がふわふわしている動物が可愛いと思っています(坂本)。

私の場合は、縁とタイミングで最初の研究対象種が決まりました。複数種を研究する場合、相応の努力が必要になります。特に最初(学生の頃)は研究のやり方そのものを学ぶ必要があり、それだけで大変なので、佐藤先生ご指摘のように種を絞る提案をされることが多いと思います。でも基本的には、好奇心があり興味が多いことは悪いことではないです。いつか全部研究してやる!と前向きに機を狙うのがよいかもしれません。(木村)

Q.バイオロギングの研究対象種は陸の動物に比べて海・空の動物が多いと感じます。陸の動物にバイオロギングはあまり適さないのでしょうか?

陸の動物(例えばサルやシカ)では、バイオロギングを使わずとも、古くから個体識別をして継続的に行動を詳しく観察する研究が行われてきました。またラジオテレメトリー(電波発信機)による行動の追跡も、古くから行われて来ました。(研究者の多大な努力とスキルが必要ではありますが)直接観察などの手法によって多くの情報が得られるために、陸の動物の研究では、海・空の動物に比べてバイオロギングの導入が遅れているのかもしれません。(高橋)

陸の動物では様々な手法が使えるのに対して、海や空の動物ではバイオロギング以外に研究する方法が少ないのだと思います(坂本)。

海や空の動物ではバイオロギング以外に研究する方法が少なかったため、これらの動物を対象にしてバイオロギングは精錬されてきました。そうこうしているうちに陸上動物以上に行動を「観る」ことができるようになり、今では陸上の動物にもよく使われています。研究の難所だった海洋が、バイオロギングや環境DNA(水を採取すればそこにいる生物がわかる)のようなゲームチェンジャーにより、すっかりその様相を変えたのは興味深いですね。(依田)

上記の先生方の回答に付けたしですが、海や空の生き物は天頂がひらけているので、衛星との通信がしやすいというのはあります。砂漠なら問題ないですが、森林ではGPSの信号が受信できなかったりすることもあります。とはいえ陸上でもバイオロギングによる調査はたくさん行われています。(上坂)

Q.陸上の動物と水中の動物では、バイオロギングを行う時にどのような違いがあるのでしょうか?

水の中は電波が通ることが出来ません。このことが陸上と水中のバイオロギングの違いを生み出している一番大きな原因です。陸上であれば動物に取り付けた装置から発信される電波を利用して、動物の居場所を知ることが出来るのですが、水中の動物の場合にはそういったことが出来ないのです(坂本)。

Q.どのようにして深海魚にロガーを装着するかなど、現在行われている深海生物のバイオロギング研究について教えてください。

私は深海ザメの共同研究に参加したことがあります。ハワイの海で、延縄を使って深度800mくらいのところからサメを釣り上げます。鰭に穴を開けてロガーをつけた後放流し、数日後にサメから切り離されて海面に浮かんだ装置を回収し、データを得ます。鰾を持っていないサメだからできた研究手法だと思います。(佐藤)

Q.サメではどんな種でバイオロギングが行われていますか?

大型のものだけでなく小型のものまで、沿岸から外洋、深海まであらゆる生息域のものを対象にバイオロギングを用いた研究されています。全てを把握しているわけではありませんが、ウバザメ、メガマウスザメ、ホホジロザメ、アオザメ、ネズミザメ、ニシネズミザメ、シロワニ、マオナガ、ハチワレ、ニタリ、イタチザメ、ヨシキリザメ、オオメジロザメ、ヨゴレ、ヤジブカ、ドタブカ、ガラパゴスザメ、ペレスメジロザメ、クロトガリザメ、カマストガリザメ、ハナグロザメ、ツマグロ、ツマジロ、ニシレモンザメ、ネムリブカ、カリフォルニアドチザメ、ホシザメ属のサメ、アカシュモクザメ、シロシュモクザメ、ヒラシュモクザメ、ウチワシュモクザメ、ハナカケトラザメ、ジンベエザメ、コモリザメ、ノコギリザメ、オンデンザメ、ニシオンデンザメ、コギクザメ、アブラツノザメ、フトツノザメ、カグラザメ、エビスザメ、オグロメジロザメ、イコクエイラクブカの研究例があります。(中村)

一点、補足すると、ホホジロザメ、イタチザメ、アカシュモクザメ、ヨシキリザメ、アオザメ、ジンベエザメなどは、特に研究例が多いです。分布域が広く、なおかつ「人気者」の種に、研究が集中しています。(渡辺)

Q.ウミガメを守るには何をすればいいですか?

毎年12月に日本ウミガメ会議に参加しています。そこに来る人達の間ではウミガメは守るべき動物であるということに異論は出ません。しかし、広く世間を見渡してみると、「ウミガメを何で守らなければいけないの?」と思っている人が大多数であるように思います。この状況を変えない限り、根本的にウミガメを守ることはできないと考えています。私に1つ作戦(野望)があります。外洋を回遊しつつ時々潜水を繰り返すウミガメに、深度と温度と塩分を測定する人工衛星発信機能付き記録計を付けることで、ほぼ毎日1年間の情報を得ることができます。この情報を気象研究者に渡し、気象予報の物理計算に活かしてもらうのです。実際、ウミガメデータを使うと予報の精度が上がったという研究例も出ています。ウミガメの生態を調べるための調査のついでに得られる海洋物理環境データも利用して、世の中の8割の人達が「いいね」と言ってくれそうなことをやると、世間の人達のウミガメを見る目が変わるかもしれません。(佐藤)

ウミガメの減少要因は、大きく分けて産卵できる砂浜域の減少、漁業による混獲、密漁だと言われています。これらを防ぐことで、保護は実現できると思います。しかし、これらは我々個々人では解決することが難しい問題です。一人ひとりができることは、ウミガメについて科学的に正しい知識を持ち、それを広めることだと思います。例えば、未だに日本でも行われている地域がある子ガメの放流会は、子ガメの生存には悪影響があることが科学的に分かっています。子ガメが可愛いからと、環境教育になるからと、子ガメの生存に悪影響を及ぼす行為を正当化していては、それは保護ではなく人間のエゴになります。 また、日本ではアカウミガメは近年激減していますが、アオウミガメに関しては増加傾向にあります。増えすぎたアオウミガメのせいで餌となる海草が減少し、藻場生態系が壊滅する事案が南西諸島各地で起きています。また漁業者との軋轢も顕在化してきています。このように行き過ぎたウミガメの保護が生態系に悪影響を及ぼす可能性もあるので、繰り返しになりますが、ひとり一人が正しい知識を持ち、保護とは何かについて考えることが重要だと思います。(奥山)

Q.南極でペンギンの研究をするには、どうしたらよいですか?

国立極地研究所のかたに聞くと良いと思います。私もむかし極地研に関係していたおかげで南極行けました(依田)。

本WSの演者に経験者がたくさんいるので、きっと教えてくれると思います。(木村)

南極でペンギンの研究をしている研究者にコンタクトするのがよいでしょう。南極にいるアデリーペンギンは世界で最も多くバイオロギング研究がされている動物種なので、研究テーマの設定を工夫する必要があります。また南極でのペンギン調査は毎年行われているわけではないので、実際に行けるかどうかはタイミング次第でもあります。(高橋)

Q.(中学校の先生からの質問)ペンギンの研究をして、将来的にはその内容を授業でも活かしたいです。どうしたらペンギンの研究ができますか。また教育と連携している例や、質的研究はありますか?

中学校の先生が実際にフィールドに行ってペンギンの研究をするのはなかなか難しいことだと思います。代わりに、ペンギンから得られるバイオロギングデータを使った解析をしてみるというのはいかがでしょうか。現在私達が作っているデータベース(Biologging intelligent Platform: BiP)には、様々な動物から得られたデータが登録され、公開される予定です。ここからダウンロードしたデータを自ら解析し、その結果を授業で中学生に紹介してみるというのはいかがでしょうか。既に学術論文として報告されている結果であったとしても、自分自身で解析した結果というのは面白く、つい人に紹介したくなるものです。(佐藤)

ペンギンの研究をするというわけではないのですが、極地研では実際に南極に行って様々な観測の場面を体験した上で、南極から授業をしてくれる先生を毎年募集しています。https://www.nipr.ac.jp/antarctic/info/2023teacher/ (高橋)

Q.渡り鳥の中でもスズメ目などの小さい鳥のバイオロギングの研究はどのようにしたらできるのでしょうか?昆虫に使えるような機器もあるのでしょうか?

年々、小さな装置が開発されていますので、いずれはスズメのような小さい鳥を対象にしたバイオロギングも一般的になっていくと思います。最近では昆虫を対象にしたバイオロギング研究も行われるようになってきました(坂本)。

同志社大学の飛龍志津子さんと、コウモリに数グラムのロガーを装着して、移動経路などの記録を行っています。また、私の関わる学術変革領域研究(https://bio-navigation.jp/)というグループには、アリにRFIDタグ(IC乗車券で使われる技術。GPSロガーやカメラロガーに比べて小型化できる)を接着して移動を記録している研究者もいます。(依田)

Q.バイオロギングを用いて陸棲の野生動物(主にネコ科)の研究、もしくはそれに近い研究ができそうな大学院研究室をご存知でしたら教えてください。

大学院研究室ではないのですが、渡辺伸一さん(RABO, リトルレオナルド)がヤマネコを対象にした先駆的な研究をされています(坂本)。

Q.身近な野生動物であるイノシシやサルなどの行動(と、その原因)について研究するにはどうすれば良いですか?

イノシシやサルなどの野生鳥獣による農作物被害は大きな問題になっており、各地で研究や調査、被害軽減対策が行われています。数年前に、「みちびき」という日本の人工衛星が打ち上げられて、GPSが高精度になったことをご存知ですか。新型人工衛星によって高性能になったGPSを動物に取り付けることで、農作物被害の軽減に役立つと考えられています。 https://qzss.go.jp/info/archive/maff_160106.html (坂本)

Q.南・東南アジアで野生の象をバイオロギングを用いて研究している機関はありますか?

私は存じ上げません(知識不足と思われます)。アフリカで行われた象の音響研究は学会で聞いたことがあります。また、インドでは、象と列車の衝突を防ぐための研究、対策が実施されていると思います。(木村)

Q.アザラシのような身体が流線型な生き物は、カメラなどが外れやすそうな感じがするのですが、どのように装着するのですか?

アザラシにカメラを取り付ける時は、背中の毛に接着剤で貼り付けます。ペンギンの場合は、背中の羽毛に防水テープでカメラを巻きつけます。魚の場合は、背中の皮膚に浅い穴を開けてケーブルを通したり、あるいは背びれにバネクランプを挟んだりして、カメラを取り付けます。いずれの場合も、数日間の装着であれば、外れることはほとんどありません。(渡辺)

Q.クジラやイルカなどの鯨類でのバイオロギングについて、詳しく知るにはどうしたら良いですか?

京都通信社から出版されている「バイオロギング」と「バイオロギング2」(日本バイオロギング研究会 編)は、たくさんの鯨類研究者がバイオロギング研究を紹介しているので、お勧めです(坂本)。

Q.大学で海獣類(特にイルカ、シャチ)の勉強、研究ができるところはどこですか?

現在海獣類の研究をしている先生がいるところでしょうか。東京大学、帝京科学大学、東京海洋大学、三重大学、近畿大学、京都大学、長崎大学・・・他にもたくさんあります。海棲哺乳類の研究会である勇魚会のHPやシンポジウムをのぞいてみてください。ただし、先生方は大学や研究所を異動、退職することがありますので、その旨はご了承ください。(木村)

Q.シャチの研究をするにはどうすればよいでしょうか?

シャチの研究については、こちらに書いたことがあるので、これを参考にしてもらえればと思います。

https://readyfor.jp/projects/hokudai-shiretoko-orca/announcements/108172

(三谷)

野生ではありませんが、私の学生は物理モデルや流体シミュレーションを使ってシャチの研究をしています(依田)

Q.バイオロギングによるマッコウクジラの研究について教えてください。

バイオロギングにより分かったマッコウクジラの潜水行動はホームページをご覧ください! http://fishecol.aori.u-tokyo.ac.jp/aoki/

現在、私はバイオロギング、分析化学、情報学を組み合わせて、マッコウクジラの回遊と社会を明らかにすることに取り組んでいます。日本近海には、世界中に生息する鯨類の半数である約40種が生息していますが、そのほとんどで社会構造や回遊様式は分かっていません。(青木)

Q.北海道(特に北海道東部)でバイオロギングによる調査や研究は行われているのでしょうか?

北海道東部でも、ヒグマやアザラシ、海鳥、魚類を対象にバイオロギングが行われています。下記のページは一例です。

https://www.tracking21.jp/news/190719-glt-03b/

https://brand.nodai.ac.jp/stories/teacher_stories/stories-article-20220217103840/

(坂本)

北海道大学の宮下先生、京都大学の三谷先生、東京農業大学の小林先生、他にも沢山の先生方が研究をされていると思います。(木村)